困った困った

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少年の体力は刻一刻と限界へと近付いていた。迫り迫った限界は、恐怖心による心臓の高鳴りに打ち消されている状態だ。息切れは激しく、必死過ぎたせいかシルクで出来たベストやズボンはあちこち破れており、所々に赤くシミが出来ている。 少年の後ろでは、三匹の獣がこちらに向かって走っていた。針のように鋭く立った銀色の毛が特徴の、狼によく似たウルフだ。狼との相違点は、やはりその毛並みだろう。林檎くらいなら串刺しに出来る剣山のような鋭さのみならず、触れた者を麻痺させる毒も持ち合わせている。 目付きは野生そのもので、口からは粘着質な涎が垂れている。餌を目前にしているために舌は出しっぱなしで、草むらに唾液が垂れては、何か焼けたような音と共に緑が溶けていった。 最早少年には助けを求める猶予すら残されていない。噛みつかれて骨まで食べられる脳内ビジョンを打ち払い、少年は一見小鳥の囀りが支配しそうな森を駆け抜ける。 かくん、とあっけなく膝が崩れた。 「……えっ」 少年は久々に声を出したように感じて、無様に草むらへ飛び込んだ。がくがくと膝が震えていて立てない。恐怖心だけでは、限界の限界まで補えなかったのだ。
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