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いつも通り変わらず列車に揺られ、目的地に向かうだけの時間。
この変わらない筈の世界の中に、小さな訪問者が迷い込んで来たのだ。
その小さな訪問者は僕の腰辺りまでしかない身長の子供だった。
その少年はメタリックイエローの金属質な帽子で目元を隠し、奇妙なリス型ロボットを肩に乗せていた。
奇妙で愛らしい訪問者。
この小さな訪問者は、けんきな足取りで、僕が乗る車両をさ迷っていたのだった。
僕はその少年に魅いられたように目が離せなくなっていた。
僕だけが。
他の乗客はまるで見えないように、その存在に興味を示さなかった。
まるで僕だけが幻でも見ているように。
少年は最初から決まった道順をたどるように僕の前まで来ると立ち止まっていた。
椅子に座ったままの僕の目線は、完全に少年の目線と同じ高さで重なっている。
眉まで隠した帽子のせいで、瞳だけが怪しく光って見えた。
深い深海のコールブルーを宿した瞳。
その底に沈んでいくような感覚を覚える。
完全無音の深海の底。
どこまでも沈んでいく感覚の途中、それを引き止めるようにささやき声が聞こえてきた。
「どこまで行くの?」
僕の意識は急速に浮上すると、再び周囲の騒音が蘇ってくる。
我にかえった僕を、眉まで隠れた帽子の底から深いマリンブルーの瞳が見つめていた。
「お兄さん、どこまで行くの?」
再び開いた口元から知歯が覗いていた。
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