閉鎖都市

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不思議な子だ。 艶のある銀髪を漂わせた神秘的な少女ノワール。 その髪に刻まれた波型の紋様。 それをピュアホワイトのマウス型をした髪飾りがとめる。 スピットを抱いたままくるくる変わる幼い表情。 それを眺めていると、ノスタルジーに似た甘いものが胸に広がった。 その視線に気付いたのか、ふいに少女は僕を見上げ見つめてきた。 ぷくっと膨らんだ唇がスローモーションのように動いて見えた。 それはまるで無声映画のワンシーンのように。 僕は見いられたようにその口元に釘付けになっていた。 そんな僕からノワールはふいに視線を外し宙を仰いだ。 僕は自然とその視線の先を辿っていく。 その先には無機質な光沢を放つボール型の機械が浮遊していた。 乗客席の合間でふわふわ上下に漂う金属の球体。 まるで海に浮かぶブイのようだ。 ボール型の監視ロボット。 ストラムと呼ばれる自立式ロボットだ。 ボールの目元から冷たい燐光が漏れだしていた。 それが背後から射し込む光の渦とまざって、曲面に反射している。 エメラル質な光沢。 窓際からとめどなく流れ込む光の波。 その波が徐々にそのスピードを落とし、次の停車駅が近い事を知らせていた。 次はリオール。 この閉鎖都市の最終地区である。 乗客はここで降りなければいけない。 都市が閉鎖されてから45年、今では都市の外を知る者はほとんど残っていない。 そんな事を考えながら再び球体の方を見る。 ボックスシートで乗客が浮遊する球体に向かい、トランジットカードをかざしている所だった。 ストラムと呼ばれるこの球体は、乗客の個人情報を読み取ってまわっているのだ。 やがて一通りの客をスキャンし終えたストラムは、僕らのいるほうに近づいていた。 僕は無意識にカードを取り出そうとポケットに手をのばす。 同時に、それを制するようにノワールが手を掴んでいた。 どうしたの?そういう表情で彼女を見ると。 「大丈夫だよ」 彼女は一言そう言って口をつぐんだ。 もう少女は何事もなかったように前方を向いていた。 その目にゆらゆらと浮遊する機械仕掛けの球体を見据え。 その時、今まで少女の腕の中でおとなしかったスピットが、少女の頭上に駆け上がっていた。
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