一章『こんなの普通じゃない』

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衛宮 彰人(えみや あきと) 彼には意味が分からなかった。 喉が渇いたな~と、自宅の冷蔵庫を開けたものの、作り置きのお茶や、ペットボトル飲料なども切れていた。 ぬるい水道水で潤すのはあまり気持ちの良いものでは無いので、近くの自動販売機で何か適当なものを買おうと思い立ったのが、午後7時39分。 自動販売機に金を入れ、スポーツ飲料の購入ボタンを押そうとしたのが、午後7時47分だった。 そして、今現在――午後7時54分。 「――はぁ、はぁ。――っ、はぁ――!」 衛宮 彰人は夜の住宅地を全力で走っている。 その理由は実に簡単。――追われているのだ。 「な、なんだってんだよ!!!!」 誰に、何で、自分が追われているのか理解できない彰人はただ叫ぶしかなかった。 彼は特に、特徴のあるような人物では無い。 性別は男。高校一年生。年齢16歳。彼女居ない歴16年。 黒毛と茶毛が混じった肩程度の長さの髪。多少吊り目の濃い茶の瞳。176㎝65㎏。 中肉中背の標準体型。 別にブサイクでもなければ美形でもない。友達も多い訳では無いが少ない訳でもない。 自他共に認める、THE普通。 強いて言うなら母がイギリス人のハーフというだけ、その遺伝子も中途半端な髪の色だけ。 良い意味でも悪い意味でも普通の衛宮 彰人は、だからこそ、今の状況が理解できなかった。 普通ではない、この今の状況が。 「だ、誰なんだよ!あいつはっ!」 息を切らしながら、後ろをたまに振り返ると、ソイツはまだ追ってきている。 暗くてよく見えないが、どうやら男らしい。 30代くらいなのか、服装は何かのロゴがプリントされたシャツにジーンズ。短い黒髪で、痩せ型だと思う。 当然、彰人は知らない男だ。 近所には住んでいないと思う。 ……なら何で、俺はコイツに追われている? と、余計に理解に苦しんだ。
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