一章『こんなの普通じゃない』

3/24
前へ
/65ページ
次へ
近所付き合いは上手くやっているつもりだ。 両親は共働き。 二人して海外を飛び回っている発掘者という奴だ。 他に兄弟も、世話焼きな幼馴染な女の子も居ない彰人はほぼ、一人暮らしを強いられているので、孤立しない為の知恵だ。 ゴミ拾いや草刈りなど美化活動なんかも積極的に参加して、隣近所の人とあいさつはもちろん、たまにちょっとした会話もかわしている。 ――ご近所付き合いのもつれで恨まれた。 なんてことは無い。 そもそも、恨んでいるからといって、いきなり追い回すような暴挙には普通でない。 ――だが、まぁ、しかし。 普通ではないのは確かだと、思考が振り切る寸前の彼でもわかる。 追ってくるソイツの走り方は歪だった。 体の関節が上手く可動しないような、歩幅が統一されていない、無理やり前に進んでいるような感じだ。 それでも、ソイツは、彰人の全力疾走に着いてきて来ている。 目は真っ赤。 瞳が赤色に加えて、白目が見えないほど充血している。 犬の様な荒い呼吸。よだれが垂れようと、お構いなしで、口は大きく開けたまま。 だらりと、力無く、伸ばされている腕は彰人を捕えようとしているのか……。 ――飢えている。 良くわからないが、コイツは、人の形をしたコイツは飢えている。 そう、思えた。
/65ページ

最初のコメントを投稿しよう!

206人が本棚に入れています
本棚に追加