一章『こんなの普通じゃない』

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「――なんて、言えばいいよ?」 彰人は、むっ、と唸った。 こういう経験が無いので、何故か緊張する。 いきなり、知らない男に追い回されて、そいつは自滅しました……? まぁ電話を掛けるくらい、誰かに追い回されるのと比べたらたいしたことはない。 兎に角、掛けるだけ掛けようと、通話ボタンを押し、携帯を耳に当てる。 2度程、プルルルというお馴染みの音を聞いた時、何気なく公園の出入り口――その男が居るところを見た。 ――が、そこに男は居なかった。 「……ん?」 一瞬、帰った?と馬鹿なことを思ったが、そんな訳は無いと思考を刹那で切り替える。 だが、その刹那でさへ、遅すぎた。 『――ぁあ゛……っ』 真後ろから、そんな、声にならない声が耳に届く。 喉から出ているのかも疑わしい。 背筋がゾッとした。 肩越しに見ると、男の潰れた顔がある。 右目は上を向いて見えていると思えない。 だが、左目はしっかりと、衛宮 彰人を捕えている。 鼻が潰れ、頬の皮膚は剥がれ、唇は抉れている。 見える肉の色は、『新鮮では無い色』をしていた。 まるで、生肉をそのまま放置していたような、黒ずんだ汚い赤。 流れる血は、もはや黒。墨汁か何かと思う位、粘り気のある真っ黒だ。 「っ――ひっ!」 彰人は、呼吸が引きつり、叫ぶこともできなかった。 ――死ぬ。 端的にそして唐突に『死』が突き付けられた気がした。 恐怖、絶望、嫌悪……。 それらに同時に襲われ、衛宮 彰人という人格が崩壊しかけた時――。 「はーい、ど~~~~ん!!!!!!」 と、完全にふざけた少女の掛け声と共に、男は真横に吹き飛んだ。 竹とんぼみたいにキリモミ状にノーバウンドで数メートル宙を舞い、更に水面を切る平石の様に何度か跳ねて、やっと止まる。 だが、その様子を彰人は見ていなかった。 彼が見たのは、少女の姿だった。
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