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葵の皿の描かれた旗を風に靡(なび)かせる赤煉瓦の城。
この城を人々は「皿城」と呼んでおりました。
城主の「お菊様」は大層美しい方で
他の殿方からの求婚が絶えません。
されどどの殿方にもいつも同じ事を言って断ります。
「金の葵の皿をお持ちでない方は嫌です」
金の葵の皿というのは、お菊城建設の際に失われた金の葵の皿のことでございます。
されど皿城が建てられたのは、お菊様が五つの時。
もう十七になられるお菊様がお探しになっても、見つけるのは至難のことです。
お菊様は銀の水仙で縁が飾られた大きな姿見に尋ねます。
「ああ、鏡よ。
金の葵の皿を持って来る見目麗しき殿方はいないかの?」
姿見は甘美な声で答えます。
「十の城を旅する白きものにまたがる麗しき殿方が見つけ出すでありましょう」
「まあ!
じゃあ、その方が私の婿になるのかしら!?
早く顔をお見せ!」
姿見は笑って言います。
「殿方と結ばれるかは貴方次第。」
お菊姫はむくれます。
「意地悪なのね。
まあ、良いわ。
後々会えるのだから」
お菊姫は姿見に緋の衣を掛け、散歩に出かけました。
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