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俺はうーんと唸ったあと、ふと心に悪戯心が湧いた。
「おい。君はどこの誰かね?ま、まさか悠に彼女が・・・?」
「まあまあアナタ。あの悠に彼女が出来るわけないでしょう?」
父さんの背後になにやらピンク色のオーラが出ている。
どうせ妄想か何かだろう。父さんの妄想癖はやばい。
俺は内心一歩下がりたかったが、ここはたった今考えた策を切り出してみよう。
自分でも気持ち悪く感じるくらいの眼差しを父さんに投げかける。
いわゆる『上目遣い』だ。
「え?忘れちゃったの?私だよ。わ・た・し」
こんな台詞を堂々と言える俺自身に身を震わせた。
もしこれが撮影でもされていたら穴に入りたい。
いや、これはイヤらしい意味じゃないぞ。
確かに今の俺には新しい穴があるが・・・ええい!うるさい!
とりあえず現状だ。
「うっ」
父さんが唸る。
同時に母さんの背後のオーラが増した、ような気がした。
「あらアナタ。まさか私の知らない内に子を作ってたのかしら?」
「え、えええっ。違うだろっ!てか、君。何で悠の服着てるんだねっ!」
うわ、気にするなよ下郎。
そう言おうとした刹那、リビングの扉から視線を感じた。
やけに視線に敏感になってしまったな、と思う。
後ろを向くとそこにはビデオカメラを手にした裕子がいた。
もちろんビデオカメラはRECの赤いランプがついている。
「・・・・・兄ちゃん。何してんの・・・・・・?」
「・・・・現実逃避だよ」
ああ、穴に入りたい。
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