学園へ

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「制服に着替えて、顔を洗ってきなさい。それから朝ご飯にしましょう」 先ほどの般若の形相は何処へやら、見る者を脱力させてしまうほど優しげな雰囲気で笑う母親が部屋を出ていくのを確認してから、ノアが緩慢な動作でベッドから降りる。 人が一月生きるには十分な金貨相当の価値を持つふかふかの絨毯に降り立った彼は、背伸びを一つ窓の外へと目を向けた。 青い空。白い雲。 文句なしの、快晴。 彼の門出を祝うかのように眩しく輝く太陽に目を細め、大きく欠伸をした彼は手早く着替えを済ませて部屋を出る。 「おはようございます、ノア様」 「いいお天気でございますね」 「母上様と父上様がお待ちですよ」 二人並んで反復横跳びをしてもまだ余裕のある幅を誇る廊下に出れば、清楚な給仕服に身を包んだメイドがずらりと並びそれぞれに彼へと声をかけた。 そのすべてをんーと気のない返事で受け流した彼は覚束ない足取りで洗面所へと向かい、鏡の前で跳ね回る栗色の髪を撫でつけ、冷水で顔を洗い、歯を磨く。 そうしてすべての身支度を整えた彼は、母親の機嫌を損ねまいと慣れぬローブに苦戦しながら足早に食堂へと向かった。 忙しなく動くメイドの間をすり抜け、時にローブの裾に足を取られて転びつつ。 「おはようございます、母上、父上」 食堂に向かって彼を待っていたのは、彼より一回り大きな姉と母親、そして――― 「おはよおおおおお!今日も可愛いなぁお前はああああ!」 満面の笑みで飛びついてくる、父親。 彼の入室に気付いた途端、読んでいた新聞紙を放り投げるが早いかノアに飛びついた父親は、彼が嫌がる素振りを見せているにも関わらず何度もしつこいくらいに頬ずりを繰り返す。 「今日から学園に入学だもんなぁ、お前も大きくなって・・・・父さんは嬉しいぞ!!」 「ありがとう、ございます・・・・あの、でもちょっと頬ずりはやめてもらえませんか・・・・」 「なっ・・・・・か、母さん!大変だ、ノアが反抗期だよぅ・・・・・」 彼に拒絶されたのがそれほどまでに堪えたのか、今度は涙目で母親に泣きつく父。 やれやれといった表情で溜息を吐く姉の横に腰かけた彼は、控えのメイドから給仕を受けそんな光景を尻目に簡素な朝食を胃袋に流し込んでいく。
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