鍛冶屋

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「総司。どこへ行く?」 ある日。 非番の総司がどこかへ出掛けようとすると、副長の土方歳三が声をかけてきた。 総司と呼ばれたその男…新撰組一番隊組長の沖田総司は土方の声に振り向くと 「刀の刃こぼれが酷くて。ちょっと見てもらいに…」 「また、あの鍛冶屋か?」 「ええ。そうです」 「ったく」 土方はタメ息をついたが、微笑して答える。 「ここのところ、いつもそうだ。いつも非番の時や仕事の合間を見付けては、あの鍛冶屋に行くな」 「ええ、まあ」 「総司。あの鍛冶屋の兄妹なら俺も聞いている。 なんでも、元は江戸かどこかからこっちに流れ着いた浪人者のせがれだそうだな」 「はい。だからこそ、この京の人たちの中では一番話しやすくて。 そこが気に入っているんです」 総司も満面の笑みで答えると土方は 「一つ言っておくが…あまり個人に肩入れしすぎるのはよくないぞ。 特にこの京じゃ、俺たちと関わり合いのある人間には…何が起こるか分からないからな」 そう忠告したが総司は気にも止めず。 「はいはい。では行ってきます」 と言って、足早に屯所を後にした。 その後ろ姿を、土方は複雑げな表情で見送った。
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