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お里佐、お琴の落髪は大奥の御坊主たちの手によって為(な)されたが、正室であった孝子と、家綱生母・お楽(高島御前)の落髪は、寛永寺より高僧らを招き特に格式高く執り行われた。
お玉の方の落髪は、言うまでもなく彼女が崇拝してやまない僧侶・亮賢の手に託され、お夏の方の御髪には天樹院が直々に刃を入れたのだった。
お万の方は大奥の御台所御座所に出向き、孝子の落飾の儀を見届けていた。
孝子は真摯な面持ちで上座の壇の上に端座し、長く美しい黒髪を背に流している。
「──…従 身 口 意 之 所 生 一 切 我 今 皆 懴 悔 …弟子某甲 尽未来際 帰依仏 帰依法 帰依僧 」
孝子の御髪を、僧侶が経を口ずさみながら、少しずつ少しずつ剃刀で切ってゆく。
目を伏せ合掌する孝子は、儀式の間、ひたすら亡き良人のために祈りを捧げていた。
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