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からんカラン。
六年前に私がよく通い詰めていた静かな曲が店内に流れるバーに入った。客はあちこち疎らに席に座っており、深刻な話をする者や結婚話をいつ切り出そうかとタイミングを見計らう若い青年がいた。私は迷うことなくカウンターの真ん中に座った。マスターは後ろを向いたままきゅいきゅいとグラスを拭いていた。その拭いていたグラスを棚にしまった時、笑顔で私の方へ振り向いた。
「いらっしゃいませ。あ、これはこれは」
「やあ、マスター。久しぶりだね」
マスターに笑顔を送ると、マスターもそれに応えるように笑顔を返してくれた。
「ちょっと待っていてください」とマスターが言うと、後ろを振り向き、ウォッカやビールが陳列する棚に手を伸ばし、私の好きなリキュールを手に取り、何やらカクテルを作り始めた。
「お待たせいたしました」
カウンターに置かれたのはグラッド・アイのカクテルだった。マスターは六年もの間私に合わなかったというのにちゃんと覚えてくれていた。
「これは驚いた。まだ覚えていてくださったのですね」
「お客様はいつも好んでそのカクテルをご注文していてくだすったので、私にはお客様を見るといつもこのグラッド・アイが思い浮かびましたよ」
「不思議ですね」
私がふっふと笑うとマスターも一緒に笑った。
「しかしまぁ、六年間マスターのカクテルが飲めなくて、凄く悲しかったよ。私も随分待ったもんだ」
「それはそれは。私はどうやらお客様に迷惑をかけてしまっていたのですかね?」
「いや、いや。またこうしてマスターの作ったカクテルが飲めるんだ。もうそんなこたぁ気にしなくてもいいだろう」
「それもそうですかね」
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