始まりの歌

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郊外の寂れた聖堂から、風ヶ夜新市街地へと移動する。 蓮華は何気ない調子で言った。 「旧市街地に住んでるんだろ? あの街は嗄乃マヤの縄張りだったはずだ。 アンタはその、アイツとはうまくやってんのか?」 「うまくやってる、とはどういう意味かしら?」 「つまり……互いの意見が食い違ったり、縄張り争いとかしないでさ、 一緒に協力して街を守ってんのかって意味だよ」 「……いいえ」 そっか、と蓮華は少し落胆を滲ませた声音で言う。 指摘すれば彼女は否定するだろうけど。 「嗄乃マヤとは停戦協定のようなものを結んでいるわ。 わたしは彼女を邪魔しないし、彼女もわたしを邪魔しない。 害者は、先に見つけた者の獲物」 「ふうん、相互不可侵みたいなもんか。 そっか、そんな手もあったんだな。 思いつきもしなかったよ」 蓮華は天を仰ぎ、燦々と照りつける太陽の光に目を瞑る。 ゆかりは問いかけた。 「あなたは今までに、嗄乃マヤと直接的にあったことはあるの?」 返事の内容は分かっている。 でもこの会話は、わたしの目的を達成するために、必要不可欠なプロセスのひとつ。 「……ああ、あるよ。 ちょいと昔にアイツといざこざがあってね。 殺し合いにすらなった。 アイツの考え方を知ってるなら教える必要はないけど、 ウチとアイツの相性は最悪。 しかも、そん時ウチはまだ弱肉強食を知らなかったからね。 当然、勝負にはならなかったよ。 勝ち目が無いと見たウチは、命からがら逃げ延びたのさ」 ま、見逃してもらった、と言う方が正しいかもしれないけど―――と蓮華は自嘲して付け加える。
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