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血気盛んな少女一ノ瀬蓮華を横目に、ゆかりは思い返す。
『あなたに縄張りを提供したい』
そう言ったわたしに対し、蓮華は聖堂の中の長椅子に座りながら応えた。
『アンタ、正気かい?』
この街の常識に照らし合わせれば、わたしは異常者以外の何者でもない。
弱肉強食のこの街では縄張りが命を左右する。
だからある程度力を持っている者は各々に縄張りを持ち、互いに争いを避けている。
それをわざわざ、『提供したい』だなんて本当に頭が狂っていると思われても仕方がない。
『わたしは正気よ。
さっき言ったことも本当。
ただし、1つだけ条件がある』
『へえ、言ってみなよ』
『今から約2週間後に、この街を潰すためにとある“企業組織”が動くわ』
『……なぜ分かる?』
『それは秘密』
わたしはなるべく無感情に聞こえるように告げた。
『あなたにはわたしと協力して、その“企業組織側の勢力”を対処してもらいたい。
そうしたら、この街のわたしの縄張りはあなたのものよ』
一ノ瀬蓮華の性行を鑑みれば、願ってもない提案のはず。
果たしてわたしの祈りは、
この世界を支配する酷薄な神に聞き入られたようだった。
『ふぅん、そういう意味ねぇ。
それにしても、その勢力がいくらか……まぁ考えても仕方ないか。
ようは、そいつらをぶっ潰せばいいだけの話だしね』
蓮華はスッと立ち上がって振り返り、不適な笑みで言った。
『その提案のった』
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