始まりの歌

5/121
前へ
/192ページ
次へ
血気盛んな少女一ノ瀬蓮華を横目に、ゆかりは思い返す。 『あなたに縄張りを提供したい』 そう言ったわたしに対し、蓮華は聖堂の中の長椅子に座りながら応えた。 『アンタ、正気かい?』 この街の常識に照らし合わせれば、わたしは異常者以外の何者でもない。 弱肉強食のこの街では縄張りが命を左右する。 だからある程度力を持っている者は各々に縄張りを持ち、互いに争いを避けている。 それをわざわざ、『提供したい』だなんて本当に頭が狂っていると思われても仕方がない。 『わたしは正気よ。 さっき言ったことも本当。 ただし、1つだけ条件がある』 『へえ、言ってみなよ』 『今から約2週間後に、この街を潰すためにとある“企業組織”が動くわ』 『……なぜ分かる?』 『それは秘密』 わたしはなるべく無感情に聞こえるように告げた。 『あなたにはわたしと協力して、その“企業組織側の勢力”を対処してもらいたい。 そうしたら、この街のわたしの縄張りはあなたのものよ』 一ノ瀬蓮華の性行を鑑みれば、願ってもない提案のはず。 果たしてわたしの祈りは、 この世界を支配する酷薄な神に聞き入られたようだった。 『ふぅん、そういう意味ねぇ。 それにしても、その勢力がいくらか……まぁ考えても仕方ないか。 ようは、そいつらをぶっ潰せばいいだけの話だしね』 蓮華はスッと立ち上がって振り返り、不適な笑みで言った。 『その提案のった』
/192ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加