始まりの歌

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「確かにあなたは、何かを護る為ならどんな犠牲もいとわないわね。 少なくとも、嗄乃マヤよりは現実を知っているわ」 「そういうアンタもそのくちだろう? 最初に見たときからピンときてたんだ。 ゆかりからは、ウチと同じ匂いがするってね」 同族意識の感触に、思わず身を翻しそうになる。 思い返すは、昔の甘ったれた自分。 現実を知らず、希望や夢ばかりを追いかけていた、とても愚かだったあの頃のわたし。 「昔は、嗄乃マヤと同じ考えをしていたわ。 馬鹿なことをしていたと思う、けど今は違うわ。 多少の犠牲は、目的達成のためならいと わない……。 蓮華は――初めからそうだったのよね?」 「あ、当たり前じゃねえか。 ウチは自分さえ良ければ周りがどうなろうと関係ない。 それがウチの哲学だ」 「わたしはあなたの考え方に共感できるし、 事実、それが正しい人のあり方なのだとも思う。 けれど人はそれぞれに自分の哲学をもってるものよ。 蓮華が嗄乃マヤのやり方を愚かだと思うように、 嗄乃マヤもあなたのやり方を非道なものだと思っている。 そこに妥協の余地は無いわ。 どちらかが持論を曲げない限り、歩みよることなんてできない」 「じゃあ、どうすりゃいいんだよ?」 「どうもしなくていいのよ。 わたしと嗄乃マヤがこれまでそうだったように、 蓮華は嗄乃マヤと極力関わり合いを持たないようにして、 今まで通りのあなたでいればいい」 蓮華はそう言ったわたしに対して、少し睨みをきかしながら言った。 「アイツを今まで通りに動かしとくってことか? それは間接的に、ウチが殺る分の獲物をアイツが保護しちまうってことだぞ。 それにウチはそんな考え方をしてるヤツ自体、気に食わないんだ」
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