噺家の描く笑いのオチ Rakugo_of_Cancer.

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 結局、登校中にキャンサー・ゾディアーツのスイッチャーである鬼島夏児は現れなかった。  その日一日の授業も、柵川中学の前に着くまで佐天と一緒にいた朔田流星を目撃した友人のアケミに、『あんなイケメン捕まえるなんて隅に置けないね涙子』などとからかわれた事以外は、問題なく終えた。  そして、彼女は再び護衛役の朔田流星と共に、自身の学生寮に向けて下校している。  一応ゾディアーツに追われている身ではあるが、年頃の少女が、年上の男子と二人っきりで町を歩けば、自然と不可抗力的に意識してしまう事がある。 (こ、これって……ほとんどデ、デートみたいな!?)  よく見れば、朔田流星は茶色いサラサラな髪とそこそこ整った顔立ちなど、一般的に見てもイケメンと言える容姿である。どことなく、お気に入りのイケメンアイドル一一一(ひとついはじめ)に似ているような気もする。 (御坂さんも最近好きな人ができたっぽいけど、私にだって一生に一度の青春をバラ色に染めるチャンスは巡ってくるはず……!)  恋に青春に生きる思春期の少女として、扱く当たり前の結論に至り、佐天涙子は行動に移る。 「朔田さんは好きな人っているんで―――」 「ッ!? 危ない!!」  言葉の途中で、佐天涙子は朔田流星の手で無理矢理地面に押し付けられた。  その瞬間、彼女の腰があった場所を横長の赤い光が通過し、そのまま近くの街路樹を真っ二つに切断した。 「いやぁ見せ付けるねぇ。でも、アツアツの時間はこの辺で終わりにしてもらうよ」  大勢の学生が悲鳴を上げ、四方八方へ走り始める異常事態に不相応なほど陽気な声で、蟹座のパワーを宿すゾディアーツの幹部が立っていた。 「さっ、朔田さん!!」  護衛の行うべき最優先事項は、護衛対象の身の安全を確保する事。  今回のような場合、護衛対象と共に逃走する事が当て嵌まる。 「うっ、わっ」  朔田流星は、その役目をしっかりと果たした。 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」  護衛対象である佐天涙子を見捨て、自らが真っ先に逃げ出す事で。
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