緩やかに終わりゆく日常 The_Everyday_End.

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     3  学園都市の中心部に位置する第七学区には、窓のないビルがある。  その名の通り、ドアや窓や階段や廊下といった移動や出入りに必要なものがなく、建物として機能しないビル。  照明と呼べるものは何もなく、四方の壁を埋め尽くす機械類のパイロットランプなどが放つ、星空のような光に照らされる室内。  そんな密室の中央に、巨大なガラスの円筒器が鎮座していた。周囲に膨大な数のチューブやコードが張り巡らされ、弱アルカリ性の赤い液体で満たされたビーカーの中には、緑色の手術衣を着込んだ『人間』が逆さまに浮かんでいた。  ビーカーに満たされた赤い液体が、口や鼻から体内に浸透して全身の細胞の一つ一つに干渉する事で、呼吸はおろか瞬き一つしない状態ながら、この世界の誰よりも理想的な健康体を維持する『人間』。  男にも女にも、大人にも子供にも、聖人にも囚人にも見えるその『人間』は、学園都市統括理事長『アレイスター』。  機械に自分の生命活動を預けたその肉体は、脳を含めた全身がほぼ仮死状態に近く、思考の大半も機械で補い、計算上は一七○○年もの寿命を手に入れている。 「久しいな。最後に君と対面したのはいつだったか」 アレイスターは、ビーカーの向こうに立つ人物に向けて、機械によって生み出された声を発する。  その相手は、たった一人の壮年の男だった。  衿元に巻いたスカーフをブローチで留め、上物でシワ一つない紺色のスーツを着こなす知性と風格の溢れる姿は、その男が強い社会的影響力を持っている事を示している。  しかし、その両目は太陽のような赤い輝きを放っていた。 「どれだけ時が経とうとも、君がこんな密室に閉じ篭っているのは変わらんな」  科 学 に も 魔 術 に も 属 さ な い 力 を 振 る う 者 達 を束ねる、赤い輝きを放つ瞳を持つ男。 「だが、その一方で私は『力』を手に入れたがね」  太陽のような赤い輝きの瞳と、学園都市の全権を掌握する『人間』を相手に一切の物怖じをせず対等に接する姿。  これらの要素が、赤い目の男の異様さと底の知れない不気味さを、全力で引き立ててるかのようだ。
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