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「必ず、手に入れる……。」
自身の部屋の中、将人は文字を追う。
淡く光るディスプレイに表示されているのは苧環の花。
冬季が涼に向って投げたその花だ。
「断固として勝つ。勝利への決意。」
将人は笑う。
最初は小さな笑いだった。
いつの間にか腹を抱えて笑っていた。
「ああ、そうか。そう言う事かよ。」
冬季の言わんとしていたこと。
それはここにあったのだ。
苧環に託された、冬季の意思。
自身の指針。
自身の人生を語る上で外せない二人の男。
まだ終われない。
「まだ終わらねぇってよ、兄貴。」
必ず手に入れるのだ。
断固として勝たなければならない。
勝利への決意だ。
暗夜のボスが涼に向って投げた愚か者の花言葉。
「何を立ち止っていやがる。」
勢いよく立ちあがった将人はそのままの勢いで扉を開けた。
「痛っ!」
ゴンッと鈍い音がする。
何事かと視線を落とせば、そこには冬季の幼い一人息子が額を押さえて蹲っていた。
状況を考えれば何が起きたのか大体想像がつく。
「人の部屋の前で突っ立ってるなんざ、桜太。お前、馬鹿か?」
「んなっ!」
未だ涙目の桜太は将人を見上げながら不満そうに頬を膨らませた。
「馬鹿とは何だ、馬鹿とはっ!我は貴様を心配してだなぁ……、あっ。」
これほどわかりやすいことがあるだろうか。
あからさまにしまったという顔をした桜太に溜息が零れる。
純粋、というか単純というか。
桜太はまだ闇の深さを持たないのだ。
「くだらない心配してんじゃねぇよ。」
「く、くだらないって……。涼が死んだのだろう?」
「ああ。死んだよ。」
あっさりという将人を桜太は不思議そうに見つめる。
兄と慕っていた男が死んだのに、どうしてこうも淡々としていられるのだろう。
桜太が一番慕っている父を失ったらきっと泣きわめいてしまうだろう。
なのに、なぜ将人は冷静でいられるのだろう。
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