妄想少女とストーカー男

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 もう、九月になろうというのに、その日の朝も蒸すような暑さが部屋に充満していた。  空は晴れ、カーテン越しに日差しが照りつけてくる。とても清々しいとは言えない朝。枕カバーが湿っていた。また、洗濯しないとね。そんな事を思いながら河原井弥咲(かわらいみさき)は目を覚ました。光明学園に通う高校二年生。平凡な肩書だ。そして、弥咲はこれ以上の特別な肩書など欲してはいなかった。毎日平和でありさえすればいいのです……と思う程、老いた事は考えないが、それでも奇妙奇天烈な事をして注目を引こうと思うほど、馬鹿ではない。例えば――。 ――コンコンというドアを叩く音。そして返事も待たずに開く。 「おはよう、弥咲君。また寝坊かね? いけないなぁ。アシスタントたるもの……」 「乙女の部屋からでてけー!!」 ――バスン。たったいま入ってきた少年が何かを言い終わる前に、その顔に枕(汗で湿り気増し)をぶつける。少年は顔をしかめて、枕を手で外した。赤毛に端整で堀の深い顔、鼻は透き通るように高く、はっきりとした瞳は柔和で穏やかな知恵者という印象を人に与える。“黙っていさえすれば”ハンサムでクールな少年と言える。着込んだ制服すら洒落て見えるのは正直、反則だと思った。 「汗の匂いが酷いな。全体が濡れ、中心が特に濡れているという事は、何度も寝返りを打った証拠。今朝は余りよく眠れてないようだね」 「い・い・か・ら、でてけ!!」
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