不良の初恋

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…かったりぃ。 無意識に眉間に皺を寄せていたことに気付き、それと共に周囲から遠慮なく向けられる好奇の視線に小さく舌を打ち気怠げなままに俺は机に顔を伏せた。 今日はこの私立黒刀学園男子校高等部の入学式だ。 まあほぼ全生徒中等部、ひいては初等部、幼稚舎からの持ち上がり組で、言ってしまえばただの進級式でしかなく、面白味も新鮮味も欠けるただの面倒臭い行事に過ぎないのだが。 このSクラスも例に漏れず、ほぼ全員が持ち上がり組で顔触れも差して変わることはなく、特にこれといって騒いだりはしない。 ……いつもなら。 今日はなんと、このクラスに入試をオール満点でパスし、外部入学してきた奴が来るのだそうで。 どうやら入学式の新入生代表の挨拶をその外部生がしたらしく、やれ顔が整っているだの綺麗系だっただの、やれ抱きたいだの抱かれたいだのなんだのと普段と違い妙に皆浮き足だっているせいか、教室内は嫌にざわついている。 …あ?俺は見てないのかって? 俺は入学式なんてもん当然のように寝過ごしていたから残念ながら(いや、別にこれといって残念でもなんでもないが)見てねえよ。あんなかったりい式で起きて一々真面目に教師だの生徒会だのの長話なんぞ聞いてられっか。 ………ちっ、外部生如きでキャーキャーギャーギャーと煩ぇな。 ぎろり、と不機嫌さを隠すことなく周囲を見渡せば、先程までのざわつきなどなかったかのように一瞬で静まり返る。中にはヒッ、と情けなくも喉が引きつったような悲鳴をあげる者もいて、昔から相変わらず容姿だけで怯えられている現状に更に舌打ちが無意識に漏れる。 俺は世間一般では不良というものに分類される者のナリをしていて、元々目付きも悪いせいか周囲からは恐怖の視線を向けられることが多い。まあ群れるのも群がられるのも好きではないから人避けには丁度良いし、生まれてこの方これといって不備を感じたことはない。 くあ、と湧き上がってきた欠伸を噛み殺し、睡魔に促されもう一度机に顔を伏せようとしたその時だった。 がらりとどこか遠慮したように教室の前の方の扉が静かに開き、恐らく自毛であろう、傷みを知らない栗色の髪の、今までに見たことも無い程綺麗な顔をした奴が入ってきた。 …あいつが、入試オール満点の外部入学生。 *
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