不良の初恋

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俺を含めた、教室内にいる全員が口を開くこともなく無遠慮に視線の雨を浴びせている中、そいつは特に緊張した風もなく黒板に貼られている座席表を一瞥し、自分の席についた。 一度そいつに向けられた好奇の目は薄れることはなく、寧ろ時間が経つにつれ熱を孕んでいく。 周囲の奴らの例に漏れず、俺はそいつのことが気になって仕方がなかった。今思えば、それは一目惚れってやつだったんだろうけど。 それまで恋愛事とは無縁だった俺には(元々自分は正常な異性愛者であると思っていたからだ)、まだその時の自分の感情は到底理解出来なかった。 それから少し遅れて、恐らく担任であろうチャラチャラした風貌の、とても教師には見えないホストのような奴が気怠げに教室に入ってきて教卓のど真ん中に立ったかと思えば、ぐるりと教室内を見渡し、そして廊下側最前列に座るそいつに目を止め、驚いたかのように一瞬目を見開いた後、面白いものを見つけたとでも言うように緩む口元を隠すことなくスッと目を細めた。 「お前が外部入学の…ふぅん、どんなやつかと思えば随分綺麗な顔してんじゃねえか。この学園は基本持ち上がり組ばっかだからな、初対面なのはお前だけだ。ほら、前に出て自己紹介しろ」 「はい。はじめまして、新入生代表の挨拶を務めたので知っている方が殆どかと思いますが、僕の名前は音尾九十雲。外部入学な上に帰国子女で最近日本にきたばかりだから、知らないことも多いし勝手も良く解らないので色々と教えてくれたら嬉しいです…これから三年間よろしくね?皆」 最後に人が良さそうにニコ、と笑い小首を傾げた瞬間、教室内に男のものとは思えぬ黄色い声が響き渡った。 *
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