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「ひなちゃん。」
午前の授業が終わって食堂へ移動する人ごみの中、その声はとても凛とした響きを持って私の耳に届いた。
立ち止まって振り向くと、そこには私を見つめるひとりの女の子。
うわっ……。
すっごく…かわいい…。
その子は、ふわっと今風のパーマがかかったボブヘアを、柔らかい栗色に染めていた。雪のように白い肌にとてもマッチしている。
服装は白いブラウスに水色のデニム素材のようなワンピースを重ねている。
スカートがその子の髪の毛同様、ふわっと広がって、まるで不思議の国のアリスのお洋服みたい。
そしてなにより印象的な、くりっと大きな瞳。その二つの瞳が今私を捉えている。
「あ、あの…、なんで私の名前…?」
私がしどろもどろしながら尋ねると、その子はふわっと笑った。
「だって、ここにちゃーんと書いてあるよっ?」
そう言ってその子は私に向かって両手を差し出した。
その手の上には、「あさくら ひな」と油性ペンでお尻に書かれた長方形の消しゴムが乗っていた。
「あっ!私の消しゴム、拾ってくれたんですか?ありがとうございます。」
瞬時に状況を理解し、彼女の手のひらから消しゴムを受け取る。
「いまどき、消しゴムに名前書く大学生なんているかなっ、しかも平仮名!」
くすっとその子は笑いながら言って私に一歩近づく。
その言葉に一気に恥ずかしくなって顔が赤くなる。
「あ、ご、ごめんなさい…」
「なーんで謝るのっ?それがなかったら消しゴムなくなってたよ?」
そう言ってさらに私に顔を近づけた。
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