プロローグ

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「大丈夫か。傷が痛むのか」 心配そうな声がすぐ側でして、彼はあえぎながらそちらへ視線を向けた。 顔中髭に覆われた熊のような男が、大きな体をかがめて彼の顔を覗きこんでいた。 いかつい体格だが、優しそうな小さな目は柔和な光をたたえていた。 男の顔に、見覚えはなかった。 「まだ起きあがらない方がいい。かなり深い傷だからね。君は半月もの間、意識不明だったんだよ」 彼の華奢な体をもと通りあおむけにすると、男は傍らのパイプ椅子に腰かけて安堵したように笑った。 「でも、よかった、意識が戻って。びっくりしたよ。川で釣りをしていたら、君が流れてきてさ。肩から血を流してるし、てっきり死んでるのかと思った。長年釣りをしているけど、人間を釣ったのは初めてだよ」 そう言って、男は豪快に笑い、「俺は野中修平。この近くでペンションを経営している。君は?」と尋ねた。
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