316人が本棚に入れています
本棚に追加
/478ページ
「大丈夫か。傷が痛むのか」
心配そうな声がすぐ側でして、彼はあえぎながらそちらへ視線を向けた。
顔中髭に覆われた熊のような男が、大きな体をかがめて彼の顔を覗きこんでいた。
いかつい体格だが、優しそうな小さな目は柔和な光をたたえていた。
男の顔に、見覚えはなかった。
「まだ起きあがらない方がいい。かなり深い傷だからね。君は半月もの間、意識不明だったんだよ」
彼の華奢な体をもと通りあおむけにすると、男は傍らのパイプ椅子に腰かけて安堵したように笑った。
「でも、よかった、意識が戻って。びっくりしたよ。川で釣りをしていたら、君が流れてきてさ。肩から血を流してるし、てっきり死んでるのかと思った。長年釣りをしているけど、人間を釣ったのは初めてだよ」
そう言って、男は豪快に笑い、「俺は野中修平。この近くでペンションを経営している。君は?」と尋ねた。
最初のコメントを投稿しよう!