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「は、早く戻らないとまた色々と物申されてしまうでござる…!」
今まさに溢れんばかりのパンやジュースを両手に抱えた生徒が一人、急いで何処かへ向かっていた。
学年内でもトップクラスの技量を持つていながら、普段のナヨナヨしさからよくパシリにされている、草陰稜である。
「まさか品切れだとは思わず…隣の棟まできてしまうとは…」
「おーい」
と、誰かが稜を呼び止めた。
「すまぬが先客がある。また後で行くでござる!」
「パシリにされる」その先入観から反射的に言い放った言葉に帰ってきたのは意外な言葉だった。
「うわ、それ全部一人で食べんの?」
意外な返答に戸惑いながら、声の主に目を向ける稜。
「いや、えと、これは、その…」
「へー!見掛けによらず大食漢なんだね!」
ただ一つ分かる事は、学園の男子制服、この学園の人間だという事。
深い青の髪に青い目、その右に包帯を巻き、動物の耳を模した帽子を被っている。
自分がパシリにされるのは周知の事実だと思っていた稜は咄嗟に問い掛けた。
「拙者の事…知らないでござるか?」
「うん」
「本当でござるか?」
「うん。てか君も僕の事知らないでしょ」
「…言われてみればそうでござるな」
「じゃあお互い様だね。名前教えて?」
「草陰…稜…でござる」
「僕は黒崎仁姫。好きな風に呼んでくれていいよ」
「黒崎仁姫」と名乗った人物は、去り際に手に抱えたパンを一つ手に取って去って行った。
「…人にパシリにされなかったのはジョナサンくん以来かもれないでござる」
と、抱えたパンの山から消えた一つの正体に気付き、
「それ!隣の棟までわざわざ買いに行ったパンでござる!」
虚しく叫び声を響かせた。
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