きんいろの ゆびわ

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2012年5月21日、東京では100年以上ぶりに金環食が観測される。 当日であるこの日、東京地方はところどころに切れ間はありつつ、雲が多く空を覆っていた。 「グラスは持ってきたのかな」 「もちろん!」 愛美はポケットから日食グラスを出した。表には花の絵が描かれている。 麗の手には同じメーカーのグラスが握られていた。愛美セレクトで、絵柄はカモメである。 食の開始は朝の6時半頃。 朝の抜けきらない空は心なしか暗く、右上の方から太陽はすでに欠け始めていた。 「ほう、良く見えるものだな」 グラスを掲げて麗は言った。 「麗は、日食は見たことあるの」 「日本ではないが、海外にいた頃に機会はあったな」 「そうだよね」 愛美は言って返す。 慎一郎は愛美にとっては母の叔父であり、麗にとっては大学の恩師にあたる。麗は彼女の父の同級生で、愛美が産まれた時から見守られてきた。 眉目秀麗、美丈夫と言ってしまえば簡単だが、幼い頃から何かと会う機会があった父の友人は、彼女の男性観に多大な影響を与えた。 父も悪くないオトコだけど、慎一郎おじさんも若い頃は素敵だったそうだけど、彼の前ではすっかり霞む、と彼女は思っている。 大人になったら麗のおよめさんになる、と宣言したのは愛美が三歳の時。 父親は大層慌て、パニックになった。 俺の友人だぞ、そいつと結婚するだって? お前、人の娘に手を出すな! と顔を真っ赤にして怒鳴る夫に、何マジになってんの、小さい子供のたわごとでしょ、と妻は言下に言い放ち、まったくもってそのとおり、と麗も取り合わなかった。 が、彼女の夢は年とともに、卒業することなく根付き、中学生になった今も変わらない。
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