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「ストップ、スト~ップ! 制服が破ける!」
襟を引っ張られ、立っていた俺は前のめりに倒されそうになる。体をひねって逃れようとするも、襟を引っ張るこいつはものともしない。
「緊急事態だぞ、仕方ない」
「んなわけない」
安孫子は俺の制止など気にもとめていないようだ。黒縁の眼鏡を光らせ、まだ帰宅していない学生がまばらといる長い廊下をわがもの顔で押し通る。結局、教室まで引っぱられた。
「よし、これで集まったな」
安孫子は腰に手をあて、教室を見渡した。と言っても、すでに放課後なので教室には俺と安孫子の三人しかいない。ん?
「誰だ、そいつは?」
「よくぞ聞いてくれた。こいつこそ、今回の主役だ!」
そういって、教室の隅にいたやつを前に引っぱり出す。
「ど、どうも初めまして……。忌田(きだ)と言います」
おずおずと出てきたのは、なんだか背の小さいやつだった。うちの制服を着ているから、下級生あたりか。
「ちなみにこう見えて同い年だ」
「なんと」
「B組です……はい」
なぜか照れたように、答えてくれた。
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