逢魔が刻

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 壱  激しい雷雨の中。  年の頃、十と五くらいに見える少女は、微動だにせず奥の暗闇を見つめていた――  ※  「お願い致します。もうすがれるのは、ここだけなのです」  頭を床に擦り付け、泣いて懇願する女を、ただじっと見つめていた祖母がため息を吐いた。  その諦めにも似たため息が、了承の意味を持つ事を、おきくは知っていた。  同時に、おきくは、常に傍らにある剣――唐と呼ばれた頃の中国から伝わった大きい剣――を背負った。  その剣は、まだ十五のおきくには、大き過ぎる。  しかし、おきくが、暮らす屋敷から一歩外を出ると、剣を背負っているにも関わらず、その姿を見咎める者は、ほとんど居なかった。  時にその姿を見留める者が現れても、夜の暗闇に紛れての事だけに、見間違いで、己を納得させているのが常だった。  いわゆる超常現象を含めたオカルト等の一切は、創作の中だけに存在している。  そう思う人達が大多数の現代の話――
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