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「僕と付き合って下さい!」
「うん、いいよ」
桜の舞い散る季節、僕に初めての彼女が出来た。
好きになったきっかけはあまり覚えていない。
気が付くと彼女を自然と目で追うようになっていて、いつの間にか好きになっていた。
ただ、告白する予定はなかった。
たまたま日直当番でペアとなり、日誌を先生に届けた後に流れで一緒に帰ることになったのだ。
そして、別れ際に思い切って、その場のテンションに任せて告白した。
……まさか本当にオッケーされるとは思わなかったけど。
「……い、いや、告白しておいてなんなんだけどさ、本当に良いの僕なんかで?」
自分で言うのもあれなのだが、僕はお世辞にも見た目が良い部類の人間ではない。
かと言ってスポーツが出来る訳でもないし、頭もそれほど良いわけでもない。
どちらかと言えば教室の隅でいつも本を読んでいるような、クラスの中でも特に目立たない部類の人間だ。
だけど、彼女は目をパチクリさせると何でもないような顔をして言い切った。
「言いも悪いも私が良いと思ったからオッケーしたんだよ。それとも断って欲しかった?」
滅相もないと首を横にぶんぶん振って否定する。
それを見て彼女は満足したのか、僅かに微笑んだ。
「それじゃあ、明日からよろしくね」
「えっ、あ、ああ、よろしく」
そう言って立ち去る彼女に拍子抜けというか、肩透かしを食らったような気分になる。
……けどまぁ、告白した当日なんてこんなものかな。
そう思い直すと僕は自分の家の方に向けと歩き出そうとして。
「そう言えば君の名前なんだったけー?」
今思い出したという感じの彼女の言葉につんのめりそうになった。
……名前も知らないのにオッケーしたのか!?
それはそれで何だか複雑な気分だなーと思いながら、僕は夕焼けの向こうに溶け込んでいる彼女に向けて自分の名前を叫んだ。
「大杉 友幸(おおすぎ ともゆき)!」
「分かったー!私は時森 巡(ときもり めぐる)だよ!」
知ってるよ!と叫びそうになったがそれをぐっと我慢して僕は彼女――時森 巡が完全に夕焼けの街並みに消えていくまで見送った。
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