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……まったく狡い人だ。つくづくそう思う。
付き合ってみてまだ一日目だというのに僕の中の時森巡像がもの凄い速度で書き変わっていく。
スポーツも勉強も出来て才色兼備という言葉が相応しい雲の上の人から、冗談や人をからかうのが好きな生身の女の子へと。
けど、その変化は全然嫌なものではない。
むしろ……。
「あれ?どうしたの友幸君?顔赤いけど」
「あ!い、いや!何でもないよ!」
「そう?けど耳まで真っ赤かだよ?もしかして熱があるんじゃ……」
「大丈夫!大丈夫だから!だからおでこを近づけなくても……って、その目はさては全部分かっていてやってるな!?」
「さ~て、なんのことかな?さぁそれよりも早く熱を……」
「ちょっ!?顔近っ」
時森さんが顔を近づけたその瞬間、
「ラブコメは余所でやろってんだい!馬ッ鹿野郎ー!!!」
何かに耐えきれなくなったのか、日比谷が泣きながら教室を出て行った。
『あっ』
その姿をあっけにとられて見送る僕と時森さん。
そして三拍おいてから、僕たちは声を揃えて笑った。
目に涙を浮かべて笑う彼女の横顔を見て僕は自分の心も変化していることに気が付く。
昨日までの僕は彼女にただ憧れていただけだ。
いつも笑顔でクラスの中心で光り輝いている彼女がただ眩しくて、自分に無いものをたくさん持っている彼女がただ眩しくて、光を求めて飛ぶ虫みたいに彼女に吸い寄せられていた。
それを恋と勘違いしていたんだ。
だけど、今は……。
「さ、お昼食べよう?早くしないとお昼休み終わっちゃうよ」
「うん、そうだね」
笑いながらお弁当袋を拡げていく彼女に僕は頷く。
そして、心の底から思った。
時森 巡の彼氏になれて幸せだ、って。
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