7人が本棚に入れています
本棚に追加
「ええい! 俺に構うな!!」
俺が比較的大きな声を出したからであろう。周囲の人々が俺の方に視線を送っているのを感じた。俺の腕を掴んでいる少年の手を振り払う。
「何でさ、お兄さん? 僕はお兄さんの願いを聞いていないじゃないか。それともあれかい? お兄さんは願いなんて1つもない人間なの?」
願い……。俺も普通の、一般的な人間であるため願望を持っている。それは、叶うかどうか分からない、もしかしたら叶わないかもしれない願望。
それは、ある女性と交際する、つまり恋愛関係を持つことである。
大学3回生。俺の1つ年上。同じ映画サークル主演女優。活発で、明朗で、気さくな性格。『キラキラしている』そんな一言が相応しい、ある女性――それが、華奈子さんだ。
俺がこの夏祭りに来た理由とは、華奈子さんにプロポーズをするためなのである。
しかし俺は同じサークルであるにも関わらず、先輩という障壁もあったというのもあるのだが、俺から会話をした覚えはほとんどない。例のキラキラとしたオーラにいつも邪魔されるのだ。
いいや。決してビビっているわけではない。
というわけで俺は華奈子さんと親睦を深めることを目的とした遊びに誘うこともできない。
そこで、なんとか話しかけようと華奈子さんの行く所、行く所を後ろからこそこそと付いて回るのが、これまでの日々であった。ストーカーなどと呼ばれるのは心外である。
最初のコメントを投稿しよう!