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「どうしたんだよ、お兄さん? 願いがあるんだったら言ってみてよ」
「何故、お前に俺の願いを言わなくてはならないのだ。放っておいてくれ」
「……なるほどね」
そう呟くと、少年は口元へと手を動かし、目は宙の一点を見つめている。どうやら考え事をしているようだ。
今のうちに何処かへ行ってしまおうか? 別に少年の思考終了まで待つ必要も義理はない。――と思い、足を動かそうとした瞬間、少年の声が発せられた。
「じゃあ、こういうのはどうだい、お兄さん?」
少年の顔には意地の悪そうな笑みが貼り付いている。瞳はまるで、ガキ大将が良いいじめの対象を見付けたようであった。心がざわざわと波立つ。嫌な予感がする。
「もし、ここでお兄さんが僕に願いを言ってくれなかったら、『きゃああああ! この陰湿そうなお兄さんが僕を犯そうとしてくる!! 襲おうとしてくる!! さっきもお尻触られた!! 誰かタスケテー!!』って叫ぶよ。それでもいい?」
……なんという奴だ。よくもまあ、こんなにも下衆なことを思い付く。
不味い……。それをやられてしまうと非常に面倒くさいことになってしまう。
恐らく誰かに通報され、その場から逃げようとしても50m8秒2の俺はすぐに捕まり、警察でありもしない罪について糾弾されるだろう。だが、子供の戯れ言だと一点張りを突き通せば、きっと釈放される。
それは問題ない、がそのことが華奈子さんに伝わることが大問題なのだ。
噂というのは本当に怖い。尾ひれどころか背びれ、胸びれまでもがもれなく付いてくる。
そのことが華奈子さんの耳に入る頃には、俺が『夏祭り会場で、全裸で奇妙な叫び声を上げながら少年のお尻を触り、興奮して全裸盆踊りを始めた変態野郎』になっているやもしれぬ。
それだけは避けたい。そうなってしまう可能性はできるだけ無くしたい。
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