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俺は仕方がなく、やむを得ず、少年に俺の願い、そしてこの夏祭り会場に来た理由を教えてやった。
適当に話を作り上げることもできたのだが、それはやめておいた。
というのも、少年の目は薄っぺらい嘘など簡単に見通せるように感じたし、また未だに華奈子さんと親しい関係になれない状況が、この奇怪な少年に話すことで打破されるのではないか――そんな淡い期待を抱いたからである。
「――とまあ、純情でピュアなハートの持ち主である俺は、華奈子さんを遠くから見つめることしか出来なかったわけだ」
「要するにストーカーってことだね?」
「違う!」
最後に不愉快なことを言われはしたが、これで俺は俺の願望について少年に述べ、この場に留まる必要はなくなったわけだ。早く華奈子さんを探しに行かねば。
ふと疑問が浮かぶ。どうして少年は俺にしつこく願いを聞いてきたのだろうか。最後に1つ質問でもしてみるとしよう。
「なあ、しょう」
「僕がお兄さんの願いを叶えてあげるよ」
「……はい?」
思わず声が裏返ってしまった。俺の質問を遮って発せられた言葉を頭の中で反芻する。“ネガイヲカナエテアゲル”。
「…………」
呆れて物が言えないとはこのことか。
全く、この子供の親はどういう教育をしているのだろうか。どこでどう間違えたら、このような訳の分からぬ子供に育つのだ。もうズボンのクリーニング代の請求などどうでもよい。小一時間ほど教育方針について説教してやりたい。
返答せず黙ったままでいると、少年は不機嫌そうな表情を浮かべたので反応をしてやることにした。
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