7人が本棚に入れています
本棚に追加
「まあ、僕はお兄さんのリアクションが薄かったことはもう気にしないよ。きっと願いが叶ったときに、裸で狂喜乱舞するお兄さんの姿が見れるからね」
「そんな姿にはならない」
……駄目だ。いつの間にか、この少年のペースに乗せられている。もう放っておくことにするとしよう。早く華奈子さんを探さねば。
「ではな、少年」
少年に背を向ける。とりあえず、夏祭り会場の西から探すとしよう。歩き続けていたら出会えるはずだ。
「ってまあ僕も付いていくんだけどね」
すぐ右隣りから声が聞こえた。驚いて顔を向けると少年が俺の歩調に合わせて歩いている。思わず溜め息を吐いた。
「……勝手にしろ」
俺がこう答えると少年は顔を歪ませながら笑みを浮かべた。
「そうだよ。それでいいんだよ、お兄さん」
全く。どうしてこんなことになってしまったのだろう。口から二度目の溜め息がこぼれ出る。
俺は夏祭り会場の雑踏へと歩みを進める。チラリと目をやると少年が不気味な笑みを浮かべながら、付いてきていた。
しかし、先程少年に下半身に、いや詳しく言えば股間にかけられたかき氷が冷たく、歩くとズボンが肌に貼り付いて気持ち悪い。加えてシロップの甘い匂い。更には染みになっている。確実に周囲の人々から、お漏らしをしてしまったお兄さんと思われているだろう。
そこでふと疑問が浮かぶ。数秒ほど考えるが全く分からない。
「なあ、少年。どうして俺の股間にかき氷をぶち当てたのだ?」
少年は笑みを浮かべて言った。
「そりゃ勿論。物語の始まりは劇的でないといけないじゃないか、お兄さん」
何だその理由は。本当に、理解不能である。
最初のコメントを投稿しよう!