無気力男の独唱曲

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どうして、人は春という季節に浮かれるのだろうか? 生暖かい眠気を誘う陽気、面倒なクラス替えや進学、就職等無駄に気を使いそうなイベントしかないというのに。 かく言う俺も、三年間をダラダラ過ごした学舎を追い出され、新たな監獄へ向かうべく真新しい学ランに身を包んで桜舞う見慣れぬ通学路を歩いている次第だ。 『俺には、お前しかいないんだ!』 ……いかん、嫌な思い出を掘り起こしてしまった。早速近くの土手に寝転んで入学式をボイコットしたくなってきた。 しかし、ここで逃げてしまうと遠い親戚とやらに連絡が行き、強制的に連れ戻されてしまうので、素行はなるべく良くしておかなければならないのだ。 じいさんが死んでようやく手に入れた自由。簡単に手放したくないのが人情というものだろう。 口に引っ掛けるようにしてチビチビと甘ったるい缶コーヒーを飲みながら最後の角を曲がると、ようやく次の学舎が見えてきた。 身の丈を軽く超える年季の入った灰色の塀、その中には対照的に艶消しの白が眩しい三階建て鉄筋コンクリートの建物が並んでいる。 どうやら、無駄な事に校舎の塗装だけ最近塗り直されたようだ。
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