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そんな狂気の戦場に居ながら、少年は何も意に介さないかのように兵の1人に手を伸ばす。
まだ幼いが故に、何も考えていないかと答えは否だ。
少年は、この戦場に渦巻く狂気の情動の全てを把握している。
把握した上で、それを咀嚼している。
長い髪から覗く隻眼が、獲物をその手に掛けるより先に、その心と魂をしゃぶり尽くす。
銃弾の雨に晒されながら、伸ばした手が兵の1人の首を締め上げる頃には、既にその兵の中身は溶けきっていたかも知れない。
「あ・・・がァ・・・・」
断末魔にしては呆気ない、刹那の呻き声。
触れた手は激しく高熱を放ち、締め上げた部分から兵の喉を焼き尽くしていた。
「あははははははは!
次はもっと強く生まれて来いよな、ノーマルカードじゃなく、最低でもレアくらいにはよ!!」
嘲笑と共に、こと切れた兵を残った兵達に投げ付ける。
同時、物理法則を無視したとしか思えぬ動きで残った兵達に肉迫し、その四肢を振るえば、そこから繰り出す一撃一撃が兵を絶命せしめる。
銃弾の一発や二発ならば防ぎ得る防護服の上から叩き付けられる一撃でありながら、その威力は全く衰えていない。
振るった拳が、繰り出した蹴りが、その全てが彼等に突き付けられた死神の鎌に等しい。
さしずめ、それは極小の嵐。
その行動に於ける、余剰分の運動エネルギーのみで周囲の建物は崩れ、廃墟同然の建物が立ち並ぶ街並みの一画に、一瞬で瓦礫の山を穿つ。
「あ、ああ・・・」
運が良かったのか、ただ1人その暴風の中で生き残った兵の1人が呻く。
これは悪夢かとでも言いたげに。
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