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「ちっ、しょうがねえな・・・」
舌打ちしながらも”あの方”というワードを出されては、この狂気に染まったベルナルドと呼ばれた少年とて従うしかなかった。
そして、その声が響き渡ったのは、ちょうどその時だった。
「この戦場に足を着ける、全ての戦士に告げる。
ーー勝敗は決した。大人しく降伏せよ、我らは無益な殺生は好まぬ」
それは声と形容する他ない事象で在りながら、現実的に見て、声と形容出来ぬ異様な事象。
声とは音であるが故に、大気を伝播して伝わるものだが、その声は大気を介して振動を伝播させるという過程を踏んでいない、つまり、その場の人間たち全ての脳に直接響いていたのだから。
「野郎ーー悪趣味な真似しやがる」
その声は事実として、戦場全域に響き渡って、全ての兵の耳に届いた。
そして、いったい何を基準に勝敗が決したのか常識的に考えれば首を傾げるような事実しかない現時点で、兵たちはその現実を本質的に理解し、その言葉を受け入れていた。
この声の主の戦力は、現状把握されるだけで八人のみで、対するこの国の戦力は未だ十万人は残っており、勝敗はと聞かれれば後者が歴然の差を着けて勝利しているはずなのだ。
ただ、圧倒的に戦力が、純粋に力量が違った。
1人1人が一騎当千どころか一騎当億すら生ぬるい規模の戦力を保有している。
その気になれば、こんな国など内1人が軽く滅ぼせてしまうのだと、兵の1人1人が誰に説明されたわけでもなく肌で感じていた。
故に、彼らは意地を見せるという概念すら忘却して気付けば無言で敗北を受け入れていた。
これが現代に蘇った魔導の為せる業なのだと誰が知ろう。
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