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8月も下旬の残暑が酷い中、縁の厚い伊達眼鏡に帽子を目深に被り、弟と一緒に現在居る場所は渋谷のハチ公前。
ま~、暑いったらない。
けど、俺が渋谷に来るにはこうするより他無い。
特に双子の様な目立つ弟が一緒じゃ尚更
仕方ないとは思うけど…
待ち合わせ時間丁度くらいにやって来た久保くんが、俺を見て大笑いした。
「ブッハハハハハハッ外村さんっ!!なんて格好してんスかっ外村さんっ!!
智史さんとか、芸能人でも連れて来たのかと思いましたよっ!」
何やらツボにハマったらしい彼の言う“智史さん”とは、亜稀のドラマで亜稀役をやった小向さんの事だろう。
やっぱりそことも面識が有るのか…
あれ?そもそもこんな他人事の様に馬鹿笑いしてる久保くん自身が芸能人じゃないのか?
俺は芸能界全然詳しくないからよく知らないけど、随分前に千里から芸能界に入ったって聞いたけど…
それは取り敢えずいいとして、久保くんは今日も当然の様に真ん丸なライオンのぬいぐるみをリュックのサイドポケットに入れている。
「つか、今日お兄さんも一緒なんだな?珍しい。
ひょっとしてお兄さんも店に連れてく?」
「いや?そりゃ流石に無理だって」
「だよな」
「なんか、真に用が有るんだってさ、兄貴」
「は?俺に?」
「あ!そう」
だ、
そのぬいぐるみ…
「久保くんの、リュックに入れてるぬいぐるみ、ちょっと見せて欲しいんだけど…」
「えっ!?……これですか?」
久保くんは一瞬表情をしかめると、なんだか身構える様にリュックに手を伸ばし
少し間をあけてからぬいぐるみを取り出し、俺に差し出してきた。
「有り難う」
と言ってそれを受け取る。
高校の時にも一度触らせてもらった事があるけど
その時と同じで、フカフカして触り心地がいいだけで…
別に殺意とか、火炙りにしたいとか…フカフカな事以外は…
…可愛い…な…
このぬいぐるみ…
「外村さん…?そろそろいいですか?」
「あっ!ごめん!可愛いね、このぬいぐるみ」
久保くんが「返してくれ」と言わんばかりに手を伸ばして来たが、なんとなく手元から離すのが惜しくて俺が手に持ったまま。
つい撫でたくなる様な柔らかい触り心地と、つぶらな瞳の愛嬌の有る顔がなんとも…
子犬や子猫を抱っこしてる感覚に近い。
前に持たせてもらった時は特に何も思わなかったけど、今は妙に可愛く感じて仕方ない。
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