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ただ、前にも書きましたが、世界はあくまで誠に恋心を寄せているんです。第一話の最後、帰りの電車を待つホームの上で、それが体現化してしまうんですね。この場面についてですが、前提として誠は言葉との恋が成就して、喜びの真っただ中にいるわけです。そして、その一番の功労者である世界に対しては、おそらく本心からでしょう、感謝をしているんですね。誠としては、世界に感謝とうれしさを話したかっただけかもしれません。ですが、世界とふざけ合っているその間に、再び前述の屋上での疑問を口にします。それに対し世界は、
「人の恋愛ほど見ていて楽しいものはない。ましてやそれを自分の手で作ったとあっては」というような発言をしています。正直この時点で嫌悪感を持つ方もいるかもしれませんが、このくらいは誰しも身に覚えのあるような心情なのではないでしょうか。なので、ここは省略します。そして、重要なのはこの後です。
「大きな借りができた気がする。必ず返すから」
という意の発言を誠がするんですね。世界はこれに対し、その礼として、突発的にキスするわけです。
「こんだけでいいや」
静かにそう言った世界の心情としては、この恋のプロデュースの終わりは、誠が自分の届かないところへ送り出し、自らの恋の終わりを意味していることを、世界は十分すぎるくらいに理解していたはずです。ですから、自分の元を離れる前の最後の機会に、たぶん切ない思い出にでもしようとしたのでしょう、キスをしてけじめを自分なりにつけたかったのだと思います。事実、電車に乗った後こっそり涙を流しています。これが何よりの証拠です。
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