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死。
昶の思考を支配する言葉。
腹部に刺さるナイフを引き抜き、ローブの男は振り返り歩いて行く。
力無くその場に崩れ落ちる昶は腹部を抑え、苦痛の声を上げていた。
男は背中を向けたまま左手を振り、昶に向かって別れを告げている様だ。
痛みが意識を遠ざけて行く。
ポケットに手を伸ばし、携帯を取り出すと何やら文章を入力している。
血塗れの携帯を手放すと昶の意識は完全に途切れていた。
すると僅かだが昶の周りの地面が光っている。
ローブの男が歩みを止める。
男が振り返った瞬間、光は一瞬にして輝きを増す。
手で遮らなければ直視出来ない程の光。
「まさか、この少年が?」
慌てて昶に駆け寄るローブの男。
だが、光は空に向かって真っ直ぐ伸び、跡形も無く消えて行った。
その場に昶の姿は無い。
地面には携帯電話が開いたままの状態で落ちていた。
画面には「ごめん、帰るの遅くなる」と言う文章が妹宛で未送信のまま残されていた。
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