第二節 時読みの賢者

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 途端、男の眉が跳ね上がった――かと思うと、すぐに眉間に皺が寄り、嫌なことを思い出すように口を尖らした。 「あーあー、ゼイン。あいつねー。あの四六時中カッコつけたいけ好かない野郎か。なんだ、お前あんなヤツに会いたいのか」 「知ってるの!?」 「まぁ、古い知り合いっつーか。昔はあいつも色々やんちゃしてたから、その時つるんでたよーな、いないよーな」  どうにも曖昧で適当な答えが返ってくる。  なんだか急に言葉が砕けている。 「あなた……まさか本当に、〈時読みの賢者〉様!?」 「時読みの賢者? 何だソレ」  先ほどから疑っていたことを口にすると、ようやく身を起こした男が、初耳というように首を傾げた。 「ゼイン国王がアウセクリス帝国建国の折りに率いた、優秀な臣下の一人よ! 現帝国騎士団長ランバート。右大臣ゼロス。魔道長官アスラン。そして、今でも王を支える重臣である彼らとは違い、王の戴冠と同時にその役目を終えたように姿を消し、〈沈黙の森〉に隠居しているという〈時読みの賢者〉」 「臣下ぁ? 俺がいつアイツの家来になったってんだよ」 「やっぱり!」  思わず不服そうに声を上げた男が、「あ」と口を押さえた。 「でも、あなたどう見ても私と同じくらいよね? もしかして本当はものすごいおじいさんで、若い男の皮を剥がして被ってるとか……ひぃ~っ」 「なに人をモンスター扱いしてんだ! 俺はこう見えても二十七だ! 今の国王と同い年だ!」 「二十七!? なんて若作りなのっ!」 「誰が若作りだ! こういう体質なんだよ!」 「体質……?」  聞き返した言葉は聞き流されたらしい。 「王に会ってどうする?」  先ほどより真剣な表情で賢者が問うた。  ナスターシアも、慎重に答えた。 「……伝えたいことがあるの。この国にとって、とても大切なことよ」 「〈翡翠の巫女〉として? ならば、教皇を通して上奏すればいいだろう」 〈翡翠の巫女〉は〈塔〉を出ることは叶わない。  彼女の言葉は、全て教団を通して外へと伝えられる。  逆に言えば、教団にとって都合の悪い予言は伝えられないと言うことだ。 「ダメよ、これは私が直接伝えなければいけないことなの。お願い、賢者様! ゼイン王に会わせて!」  ゼイン国王と旧知の仲にある〈時読みの賢者〉と出会えたことは、天の導きだ。  ナスターシアはサウレ神に感謝した。
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