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途端、男の眉が跳ね上がった――かと思うと、すぐに眉間に皺が寄り、嫌なことを思い出すように口を尖らした。
「あーあー、ゼイン。あいつねー。あの四六時中カッコつけたいけ好かない野郎か。なんだ、お前あんなヤツに会いたいのか」
「知ってるの!?」
「まぁ、古い知り合いっつーか。昔はあいつも色々やんちゃしてたから、その時つるんでたよーな、いないよーな」
どうにも曖昧で適当な答えが返ってくる。
なんだか急に言葉が砕けている。
「あなた……まさか本当に、〈時読みの賢者〉様!?」
「時読みの賢者? 何だソレ」
先ほどから疑っていたことを口にすると、ようやく身を起こした男が、初耳というように首を傾げた。
「ゼイン国王がアウセクリス帝国建国の折りに率いた、優秀な臣下の一人よ! 現帝国騎士団長ランバート。右大臣ゼロス。魔道長官アスラン。そして、今でも王を支える重臣である彼らとは違い、王の戴冠と同時にその役目を終えたように姿を消し、〈沈黙の森〉に隠居しているという〈時読みの賢者〉」
「臣下ぁ? 俺がいつアイツの家来になったってんだよ」
「やっぱり!」
思わず不服そうに声を上げた男が、「あ」と口を押さえた。
「でも、あなたどう見ても私と同じくらいよね? もしかして本当はものすごいおじいさんで、若い男の皮を剥がして被ってるとか……ひぃ~っ」
「なに人をモンスター扱いしてんだ! 俺はこう見えても二十七だ! 今の国王と同い年だ!」
「二十七!? なんて若作りなのっ!」
「誰が若作りだ! こういう体質なんだよ!」
「体質……?」
聞き返した言葉は聞き流されたらしい。
「王に会ってどうする?」
先ほどより真剣な表情で賢者が問うた。
ナスターシアも、慎重に答えた。
「……伝えたいことがあるの。この国にとって、とても大切なことよ」
「〈翡翠の巫女〉として? ならば、教皇を通して上奏すればいいだろう」
〈翡翠の巫女〉は〈塔〉を出ることは叶わない。
彼女の言葉は、全て教団を通して外へと伝えられる。
逆に言えば、教団にとって都合の悪い予言は伝えられないと言うことだ。
「ダメよ、これは私が直接伝えなければいけないことなの。お願い、賢者様! ゼイン王に会わせて!」
ゼイン国王と旧知の仲にある〈時読みの賢者〉と出会えたことは、天の導きだ。
ナスターシアはサウレ神に感謝した。
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