第三節 未来を視る少女

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 時の流れは、川の水のようなものだ。  上流から下流へ、過去から未来へと流れていく。  時を見る時、ナスターシアはいつも上流に立っている。  そして幾筋も流れる可能性の未来を見定め、『最善』を選ぶ。  それが、〈翡翠の巫女〉であるナスターシアの役目だった。  そして、その予言を受け、サウレ・マーラ教団は数々の奇跡を起こし、人々を導いた。  ここマーラ大陸において、戦乱が集結し、統一国家が実現してから十年。  大陸統一連邦の宗主国たるアウセクリス帝国ゼイン王は、建国の折、当時すでに大陸全土に信者を得ていたサウレ・マーラ教を国教化し、信仰面での人心の統一を図った。 〈翡翠の巫女〉の存在までは、さすがにゼイン王も計算していたわけではないはずだ。  だが、巫女の神性を追い風としたサウレ・マーラ教の躍進は、結果的に『サウレ神の祝福を受けた大陸民』としての誇りと連帯意識を、迅速に国民に波及させる大きな原動力となったことは疑いない。  この十年、教団と帝国は蜜月にあると言っていい。  ただ――
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