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「あーあ、こりゃ酷いな」
物思いに耽っていたナスターシアの横に、いつの間にかしゃがみ込んでいたクロウが、腫れた足首を観察する。
「そんなところに踞ってないで、そこに座ってろ。あ、動けねーのか」
動かないナスターシアに、一人合点したクロウが、その身体をひょいと抱き上げた。
「ひゃっ……わぶっ」
かと思うと、ぽいとクッションの効いた寝台の上に放り出され、ナスターシアは呻いた。
「ひ、人を荷物みたいに……!」
「えーと、どこやったっけ? 確か、アスランが作った薬草がまだこの辺に……あ、あったあった。でも、十年前のやつとか効き目あんのか? ま、いっか」
ぶつぶつと独り言を呟きながら、壁際に置かれた巨大な棚の抽斗を探っていた青年が、救急箱と薬草袋を手に戻ってくる。
「ほら、そこに座れ。見せてみろ」
ぶっきらぼうに促され、ナスターシアはおずおずと大きな寝台の端に座り、床に膝をつくクロウの前に左足を差し出した。
「これで少しはマシになるだろ。ったく、無茶しやがる」
「……ありがとう」
汚れを拭いた患部に薬草を巻き、その上から器用に包帯を巻いていく。
「これ、アスラン様がお作りになったの?」
「ああ、あいつは魔術の天才だったが、こういうことにも長けていた」
「すごいわ……あなた本当に、ゼイン王と共に戦っていたのね」
彼が身近な人間のように語る伝説の魔術師の話に、ナスターシアは手当てを受けながら、うっとりと賞賛した。
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