第三節 未来を視る少女

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 あらゆる分野の知識に精通し、地平線まで見渡す視野と海よりも深い知恵で、まるで時の先を読むかのように、王の助言役として大陸統一までの道程を切り開いた――時読みの賢者。  彼は剣も魔術も持たなかったが、〈時読みの賢者〉の存在をなくして、ゼイン王の大陸統一はなかったとまで言われている。 「すごいわ。すごいけど……羨ましい」  思わずこぼれたナスターシアの本音に、膝をついて手当てをしていたクロウが顔を上げた。 「私も、その時ゼイン王のお供にいられたって……何度思ったか分からない。そうしたら、この力も、もっとあの方のために使えたかもしれない」 「なぜ、そこまであいつに拘る」 「ゼイン王は、私の命の恩人なの」  ナスターシアは、彼にたった一度だけ会ったことがある。  会ったと言っても、大半の記憶は曖昧で、後からあれは新しい国の王だったのだと、人づてに聞いただけだ。  十年前、山賊に襲われたナスターシアを保護してくれたのは、悲願の大陸統一を成し遂げ、帝都に凱旋中のアウセクリス帝国騎士団だった。王とその側近達が自ら飛び出し、山賊を一掃し助けてくれたのだ。 「七歳の時、事故にあって、家族を失った私を助けてくれた……未来を与えてくれた――」 「…………」  だから、その恩を少しでも返したいと思う。  教団の権威のために利用される〈翡翠の巫女〉という立場は、決して楽な場所ではなかったが、それでもナスターシアが前を向いてこられたのは、その強い想いがあったからだ。
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