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不思議な気持ちで手足をブラブラしていると、こちらを眺めていたクロウがぽつりと呟いた。
「お前、見かけによらず根性あるよな」
「え?」
「ゼインのためだかなんだか知らねーが、ずっと塔に閉じ込められてた巫女が、一人でこんな樹海を強行突破しようなんざ、普通思わないだろ」
「だって、それは……」
「いけるって未来が『見えた』から? でも、一歩間違えたら失敗する未来も、勿論『見えて』たんだろ」
「…………」
クロウの言うとおり、ナスターシアが何度も未来を見定め、必死にたぐり寄せた一本の糸は、奇跡のように頼りない。
可能性の連続の上に成り立つその道は、一歩踏み外せば奈落の底に落ちる結末が無限に広がっているものだ。
事実、ナスターシアは現時点で、彼女が握りしめていた糸を失ってしまった。
もう一度、膨大に枝分かれする時の下流から、ナスターシアの望む未来へ続く時流を探し出さなければいけない。
その糸がまだ残っているかどうかも定かではないが、希望はあった。
〈時読みの賢者〉クロウ――彼の存在は、確実にゼイン王へと繋がっている。
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