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〈沈黙の森〉には、時の門が存在する。
そして、その〈時の門〉を守護するのが、〈時の番人〉だ。
時を司り、時を守り、時を操る存在――時の門の番人。
「鴉(クロウ)――時の番人の化身ね。星を読み、時を操るとまで言われた賢者にピッタリ……本当に、あなた〈時の番人〉じゃないの?」
〈時読みの賢者〉という呼び名が、この地に隠居した高名な賢者を、この伝承になぞらえたものであるのは明らかだ。
ナスターシアの冗談めかした問いかけに、クロウは答えない。
代わりに、その黒曜石の瞳をじっと星空に投げかけた。
その横顔に月の陰影がかかり、この青年の存在を、より一層謎めいたものに見せる。
「――南の星が割れている。次の夏は酷い冷夏になる。今から穀物の貯蓄と流通の調整を進言してやれ。放っておけば物価が高騰し、冬には餓死者が増加する」
何ともないように言われた言葉に思わず天を仰ぎ見る。
澄み切った冬の星空が広がっていたが、満天の星々の中のどの星を指しているのか、ナスターシアには分からなかった。
「……まあこのくらいのことは、お前でも時期が近くなれば見えるか」
「……近くなってからでは手遅れなこともあるわ」
占星術は、天候や災害、国家の大局などを読むのに有効だ。
ナスターシアの未来可視は、人の目と同じで、近いところは細かく見えるが、遠いところはおぼろげにしか見えない。
そして、未来はいくつもに枝分かれしているので、その先は選ぶ未来によって大きく異なる場合がある。
言うなれば占星術は結果を見るが、未来可視は過程を見る。
使い方次第ということだ。
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