28人が本棚に入れています
本棚に追加
「あなたは、なぜこんなところに引きこもって暮らしているの?」
それは純粋な疑問だった。
出過ぎた真似だとは分かっているが、言葉がついて出る。
「戦乱の時代に、王の参謀と呼ばれたあなたが――この大陸を、一つの国家へと導いたあなたが……それだけの能力を持ちながら、なぜ王と民のために使おうとしないの?」
この質問は、やはり彼にとって愉快なものではないらしい。
拗ねたような目つきに鋭さが増し、固い声が返ってくる。
「俺はゼインの家臣じゃない。なぜあいつの為に働かなきゃならん」
「あの方は素晴らしい方よ」
「お前を助けたからか?」
「違うわ。いえ、勿論それもあるけれど、それだけじゃない」
ナスターシアはかぶりを振った。
「私は未来を見、今を知ることが出来る。私はこの国の未来のため、この国の命運を握るあの方を最も多く見てきた」
初めは仕事のため、国のために見ていた。
いつしか、それ以上の敬愛の念を持って彼を見守っていた。
見守ることしか出来なかった。
「あの方は、心から民と国を思い――そしてその思いを実現する、情熱と力を持っている。あれだけの王はこれから先、永く出ては来ないでしょう。だからこそ、今の若い王の治世の間に、より多くの財産を残しておかなければいけない。あ、これはお金っていう意味だけじゃないから」
「分かっている。全ての分野において、後世に残せるだけの地盤を作っておけということだろう」
頷き、クロウはクッと喉で笑った。
少し人の悪い笑みだった。
最初のコメントを投稿しよう!