第四節 見えない未来

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「あなたは、なぜこんなところに引きこもって暮らしているの?」  それは純粋な疑問だった。  出過ぎた真似だとは分かっているが、言葉がついて出る。 「戦乱の時代に、王の参謀と呼ばれたあなたが――この大陸を、一つの国家へと導いたあなたが……それだけの能力を持ちながら、なぜ王と民のために使おうとしないの?」  この質問は、やはり彼にとって愉快なものではないらしい。  拗ねたような目つきに鋭さが増し、固い声が返ってくる。 「俺はゼインの家臣じゃない。なぜあいつの為に働かなきゃならん」 「あの方は素晴らしい方よ」 「お前を助けたからか?」 「違うわ。いえ、勿論それもあるけれど、それだけじゃない」  ナスターシアはかぶりを振った。 「私は未来を見、今を知ることが出来る。私はこの国の未来のため、この国の命運を握るあの方を最も多く見てきた」  初めは仕事のため、国のために見ていた。  いつしか、それ以上の敬愛の念を持って彼を見守っていた。  見守ることしか出来なかった。 「あの方は、心から民と国を思い――そしてその思いを実現する、情熱と力を持っている。あれだけの王はこれから先、永く出ては来ないでしょう。だからこそ、今の若い王の治世の間に、より多くの財産を残しておかなければいけない。あ、これはお金っていう意味だけじゃないから」 「分かっている。全ての分野において、後世に残せるだけの地盤を作っておけということだろう」  頷き、クロウはクッと喉で笑った。  少し人の悪い笑みだった。
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