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「お前は巫女などやめて政治家になるべきだ」
皮肉なのか賞賛なのか迷うところだ。
「その国を思う情熱はゼインにもゼロスにも劣らない」
「そうね、生まれ変わったら……彼らのように、なんて言わない。少しでもいいから、国のために何かが出来る人間になりたいわ」
瞳を曇らせたナスターシアに、クロウが意外そうな顔をした。
「今までも、お前は多くのことに貢献しているだろう」
「そうかしら?」
「ここ十年で、教団の威光がここまで大きくなったのはお前の存在が大きい。サウレ・マーラ教の道徳的な教えは、どんな法律よりも効率的に人々の秩序を維持する」
クロウの言葉は正しかった。
だがその正しさは、今はナスターシアの心を曇らせるだけだった。
帝国と教団が協力し合って民を導いてきたからこそ、建国十年という短い時間で、今の安定した治世を築けているのは事実だ。
だが、今は――これからは――
黙り込んでしまったナスターシアの表情に何を思ったか、クロウがため息をついた。
「仕方がない。あいつに会わせてやる」
意外な言葉に顔を上げる。
願ってもない話だ。
未来が見えない今、ナスターシアが一人で王の元に辿り着くのは難しい。
青年は、相変わらず無愛想に言った。
「会わせるだけだ。後は知らない。何も協力しない」
「結構よ。いえ、むしろ――」
――その方が、『都合が良い』
最後の言葉を飲み込み、ナスターシアは他人の善意を利用する己の罪深さを懺悔した。
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