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「足の具合はどうですか?」
男はリーンの側まで寄り、屈んで視線を合わせるが反応が無い。
まるで物語の一節を実際に目撃したかの様な闘いに、すっかり心奪われていた。
「?大丈夫ですか」
男が肩を叩くと、それでようやくリーンは現実に戻される。
「え?あ、はい!大丈…イタ!」
その際に忘れていた足の痛みも戻ってきたようだ。
「少し失礼します」
男は手早くリーンの足に触れ、ポーチから包帯シラカバの樹皮を取り出し患部(かんぶ)に巻いていく。
「軽い捻挫のようですね、処置はしましたので明日には痛みもとれるでしょう」
男が言った通りに手当てされた箇所がじわっと温かくなって痛みが和らいでいく。
「とはいえ直ぐには動けないでしょう。村まで送りますよ」
男は徐(おもむろ)にリーンを背負って立ち上がった。
「そ、そんな悪いです」
「遠慮する事はありません。君も村を守ろうと立派に闘ったのですから」
そう言うと男はグリーンベルへと歩いて行くーー
幼い頃から父親を知らないリーンにとって大の男におぶられるのはあまり経験がない。
少し恥ずかしくて、とても暖かい…
そう思わせてくれる優しい背中だった。
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