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「拓、おはよっ」
「うす」
後ろから聞こえた声に、少年は頭をぼりぼりと掻きながら気だるそうに返す。肩を叩いた少女は、苦笑いしながら彼の隣を歩き出した。
「相変わらずダルそうだねー、結局どうだったの?」
彼女の問いに少年は深々と溜め息を溢したかと思えば、その顔をしかめた。
その表情から察した彼女は、自分が地雷を踏んだことを思い知るのだった。
「どうもこうもねーよ、ったく。なーんで俺が毎度毎度あんなことをせにゃならんのだ。言乃、代わってくれ」
「無理だよ、私は霊なんて見えないもん」
むりむり、と両手を振る彼女に、少年は再び溜め息をついた。幼馴染みである彼女は、自分の境遇を知っている。
少年の名は、御園拓夢といった。御園家は寺を継ぐ家系であり、そして彼は長男。つまり次の当主が彼になるのは、彼が生まれた瞬間に決まってしまっていた。
そして御園家の『お役目』には、町をさまよう霊を導くことも含まれている。昨日も彼はその役目を果たしてきたのだ。
「毎日やるわけじゃないとはいえ、面倒くさいにも程があんだよ」
「……でもなんだかんだでちゃんとこなしてるんだし、拓は偉いよ」
やや茶色がかった髪をかきあげながら、彼女は拓夢の顔を覗きこんだ。
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