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「おー痛ぇ。言乃め、本気で殴りやがって……」
放課後。引き出しの中の教科書を鞄に入れていた彼は、頭を擦りながら不満そうに呟いた。
あのあと言乃の鉄槌(拳骨)を食らったところが、未だに痛む。彼女の拳骨は拓夢にとって抑止力的な存在になっているのだが、暫く見ていなかったので失念していたらしい。
風が吹いたのはたまたまだし見えたのは不可抗力ではあったのだが。
「今日は誰もこないと助かるんだけどな……課題出たし」
言乃は小学生時代からやっているバスケ部の部活に行ってしまった。問題の詳細はまだ見ていないが、部活後で疲れている彼女に聞きにいくのは憚られる。
彼は関東の大学に行って、学生の間くらいは『お役目』から解放されたかった。そのためには、言乃と同じくらいのレベルにならなくてはいけない。本気で難関大を目指している生徒からすれば変な理由に思われるかもしれないが、彼にとっては絶対にクリアしたい至上命題であった。
「さて、帰るか」
誰に言うでもなく、彼は鞄を担いで教室を出た。
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